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【読書感想】アフガニスタンの診療所から

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昨年12月にアフガニスタンで襲撃され亡くなられた、医師の中村哲さん。ペシャワールに赴任した1984年から1993年における現地での活動の様子を綴った本である。恥ずかしながら、僕は中村氏のことを亡くなるまで知らなかった。中村さんが亡くなったときに、現地の人たちが悲しむ様子をテレビで見て、その活躍を知った。

今回本書を読んだ理由は、今世界中を騒がせているコロナウィルスだ。コロナウィルスの蔓延が恐れられている理由は「医療崩壊」を招かないためとあるインターネット記事で読んだ。若い人は自分はかからないと思っているし、かかったとしても治療を受けられると考えている。しかし「医療崩壊」起これば、が当たり前に受けられると思っている治療を受けられなくなってしまう。そして、すでにヨーロッパではそれが起こっていることだ。

本書を読んで、「医療がまともに機能していないとどうなってしまうのか」ということが理解できた。本書の要旨は、中村さんが医療サービスをパキスタンアフガニスタンの農村や難民に広めていく過程だ。農村や難民には金銭面及び地理的な問題で最低限の医療サービスすら受けられない人が多くおり、治療と薬さえあれば治る病気が死に至る病になってしまうことがある。中村さんが赴任していた場所はもっと過酷だったと思うが、仮に「医療崩壊」が起これば先進国でも通常の治療が受けれられなくなり、本来であれば生きながらえる人でさえ、帰らぬ人になってしまう可能性が出てくる。だからこそ、本書は今読むべきなのだ。

そして僕の心に刺さったのは、後半の国際協力と日本について書いてある部分。

アフガニスタンでの生活に馴染んだ中村さんは10年経って帰国した際、大きな違和感を感じたという。日本は近代化の渦の中で、物質的な豊かさと引き換えに、大事なことを失ってしまったのではないかと。僕も文章を読みながら、「本当の豊かさ」や「正義」とは、一体何であるのか、誰が決めているのか、と考えていた。

僕も気づかないうちに国際化=西洋化と刷り込まれていて、矮小化された「グローバル教育」を受けてきた。しかし本書を読んで、国際社会は二元論では語れないし、決して単純化出来るものではないということを感じることが出来た。本書が上梓されてからすでに27年が経っており、テクノロジーの進化もあって世界は大きく変わっている。しかし、その場所にはその場所の生活があり、文化・伝統・アイデンティティがある。日本人として生きてきた僕のモノサシだけでは絶対に世界は測れないし、普遍的な善は存在しない。これだけはちゃんと覚えておきたい。

最後に、以下の文章が非常に僕の心を打ったので引用しておく。グローバル社会を生きる現代人が忘れてはいけない重要な考えだと思うからだ。

少なくともペシャワールでは、、もっともよく現地を理解できる者は、もっともよく日本の心を知る者である。自分のを尊重するように相手を尊重しようとするところに国際性の真髄がある。西欧社会だけが国際社会ではない。 (p.184)